夫と話してみた

レニア

2011年01月15日 14:48

「ただいま〜」

とドアの開く音がする。

正午。
夜中から働いている夫が、仕事から帰宅した。

以前は彼、混乱して「おかえり〜」といいながらドアを開ける事もしばしばだったが
最近ではそれは全くなくなった。

(未だに「いただきます」「ごちそうさま」は混同して間違える。笑)

私はその時ちょうどコンピュータルームにいた。
PCの前に座り、ある一通のメールを読みながら、「う〜ん、、、」と唸っていたところだった。
近くの大学で教える、友達からのメールだった。
来学期(4〜6月)、彼女の大学で初級日本語を1クラスだけ教えてもらえないかという依頼のメールだ。


「おかえり〜」といいながら、リビングルームのほうへ向かい夫を出迎える。

私の顔を見ると、二カッと笑ってハグッ。
そしておきまりの質問。

Hi, Honey. How did you sleep?


帰り際にサクッと買い物をしてきてくれたようだ。夫は買い物袋を数個抱えていた。

君がいつも飲む無糖のsoy milk、今日は見当たらなかったよ。いま冷蔵庫に入ってるやつで、あと数日もちそう?

とかなんとか言いながら、キッチンカウンターの上に買ってきた物を広げ始める。

見て、Nappaが安かったよ。(ここの人はなぜか「白菜」を「ナッパ」と呼ぶ)

こんな会話をハタから見てると夫のほうがよっぽど主婦っぽく見えるのではないか??
長いことシングルファーザーとして家事全般をひとりでこなしてきた人だからだろうか。彼はこういうことを全く厭わない。

うちは裕福ではないので節約は必須。食料品の買い出しのときも、ふたりで「お肉類はあっちのお店が安いから」とか「今週はあの店でビールがセールだから」とか話し合ってからする。そして私が仕事を再開する前はいつも一緒に買い出しに行っていた。
しかしそれもめっきり無くなった。。。今ではできるほうが仕事の帰りに、気づいた分だけ買って帰るというパターンが多い。

昨日のブログで「仕事中心の生活をなんとかしなきゃ!」と書いたばかりなのに
今朝になって友人からの仕事依頼のメール。
今教えている大学と掛け持ちになるが、それもたった一学期だけだし、掛け持ちなんてハワイ時代から何度もやってきた。しかもどんどん人が解雇されてるこのご時世に仕事の話がこうやって舞い込んでくるだけで、本当にありがたいこと。
昔だったら二つ返事で引き受けていただろう。

でも、引き受けてしまったら今より忙しくなるのは目に見えている。。。


お金は大切だ。だって生活していかなきゃならない。
なので仕事が増えて収入も増えるのは、喜ばしいこと。
だけど、代わりに家族との時間を失う。

例えば私が全く働かなくても、贅沢はできないけれど生活はしていけるのだ。実際シアトルに越してきてしばらくは、私は全く仕事をしていなかった。それでも生活はきちんと回っていた。
移住してきたばかりだった為、様々な手続き、引っ越しなどの慌ただしさはあったが、なんでも二人で一緒にしたので相方と共有する時間は今とは比べものにならないほど、多かった。


私は大昔に、殺人的な忙しさで仕事をする人と暮らしていたことがある。
その人とは、家で共有する時間がほとんど無かった。
「遊んでいる訳ではなく、仕事をしているのだから」と、
これが日本人の美徳というか、DNAに植え付けられた信念と言うか「文句なんか言ったらバチがあたる」という結論に当然のごとく達する。
なのでガマンした。
ガマンして、何か別のことで自分を忙しくすることに集中した。

だが結果、その人とのrelationshipは死んだ。
ふたりで努力して、水をやって、育ててこなかったからだ。
私もその人も「サボっていた」のである。
どんなに忙しくても、大切な人との時間は、努力してでも確保すべきだったのだ。

当時の私は「ガマンして待つ」側だった。
が、今は
自分が相方に、その逆バージョンをしているのではないかという不安がすごくある。

家にまで仕事を持ち帰って、夜も週末もなくデスクに向かっているのは、私。
夫は、仕事とプライベートをきちんと分けている。
「夫婦の時間が少なすぎる」という理由で、離婚をつきつけられたという話は
アメリカではそう珍しくない。これもお国柄か。
とにもかくにも、私の相棒は日本人ではない。アメリカ人だ。
彼が、日本人である私を理解し、まるごと受け入れようと日々努力してくれるように
私も、アメリカ人である彼の気持ちを理解して、受け入れていかなければと思っている。


今夜はマイケルが友達の家でのパーティにでかけ、ちょうど夫と二人きりだったので
来学期仕事が増えるかもしれないこと、自分が今抱えている不安などを正直に話してみた。
こうしてきちんと向き合って話すのは久しぶりだ。
ちなみに夫は私が過去に体験したことや、その時の気持ちなどを全て知っている。


夫:自分ができると思うなら、すればいいよ。体力的にムリだと思うならしなくていい。
  僕とマイケルのことは心配しなくていいよ。We will adjust to you.


...と、「そんなこと気にしてたの?」と言いたげな、まんまるお目目の相方。

私:でも、それってあなたにとってフェアじゃないでしょう?今だって色んなこと
  カバーしてもらってるし。大事な時間を犠牲にしてまで、お金って必要かなって
  思うんだけど...どう?


夫:だけど、君はお金のために仕事してないもん。

私:???

夫:Your work makes you happy. 君は仕事してると幸せなんだよ。だからしてるの。
  僕は単にお金のために仕事してる。だから今の仕事が出来なくなっても、全く不幸じゃない。
  べつに他の仕事でも何でも、全然オッケー。でもレニアは違う。
  仕事楽しいでしょ?学生かわいいでしょ?もし教える仕事が出来なくなったら、君は
  ハッピーじゃなくなると思うよ。君がハッピーでいることは、僕たち夫婦がハッピーで
  いるためにも、とても大事なことなんだよ。わかる?



普段はドラえもんのようなぽよよ〜〜んの夫だが、こういう話をするときはガラリと雰囲気が変わる。

結論からいうと

夫:僕はぜんぜんガマンしてないよ。

なのだそう。


夫:もしも君が「ふたりのために」と言って仕事を減らすか辞めるかして
  それでハッピーじゃなくなって、毎日に不満をもったりイライラしたりし始めたら
  そっちのほうが僕ら夫婦には、ずっと悪影響だと思う。



結局は、何かあっても
こうして気持ちを素直にことばにして、
ガマンしたり、決めつけたり、または勝手に推測したりしないで、
正直に相手に伝えて
ふたりで物事を決めていってるうちは大丈夫、という結論に落ち着いた。
「話してくれてありがとう」と夫は言った。
「聞いてくれてありがとう」と私も言った。



話し合うって、大事だなあ。


今でもあの本が言ってたように「人生の大事業(結婚)をサボらないように!」という気持ちは根底にあるけれど
今夜、思ってた事を相方にことばにして伝えて
今まで抱えていた後ろめたさが、ずいぶんと消えた。

どんなに忙しくても、どんなにお互いのスケジュールがすれ違っていても
こうやって二人で話す時間は、これからも絶対確保していかなきゃなと思った。

このrelationshipを、枯らしてしまわないように。